経営と技術の両論で農業領域でのテクノロジー導入に挑むアグリテック企業CTOのアタマノナカ【CTOインタビュー】

みなさんこんにちは!未完Media編集部です。

デジタル化が加速する中、多角的に物事を判断し、状況に応じて適切な技術を採用したり開発できたりする人材が求められるようになりました。ハードウェア、ソフトウェア開発のような技術面でのスキル習得はもちろんのこと、「その技術がどんな課題を解決するために必要であるか」という視点をもつことを未完では大事な要素の1つとして捉えています

技術を使い事業の課題や経営のために取り組む”CTO(最高技術責任者)”の方にインタビューする新企画「CTOのアタマノナカ」をお届けします。

今回はエゾウィン株式会社のCTO・奥山 森さんにインタビューしました!

工場で稼働するロボット、車両部品等の生産ラインの開発を手がけるFAエンジニアを務め、その後独立しスポーツ分野でDXを導入する会社を起業。そして現在は、農業分野で使用する計測用ハードウェアとアプリケーションを中心に農業DXを行なう会社のCTOとなった奥山さん。

FAエンジニアという経歴から起業し経営と開発、双方の視点から見る技術開発者としてエンジニアをまとめ、開発の方向性やスケジュールの細かな調整を行うCTOは、普段どのようなことを考えて仕事をしているのでしょうか?

現在のキャリアにたどり着いた経緯や現場で働く上で気をつけておきたいことなど、学生さん必見の内容でお届けします!

奥山 森 / エゾウィン株式会社CTO
1987年生まれ、山形県東根市出身。国立鶴岡工業高等専門学校の電気工学科を卒業後、東北パイオニア株式会社に入社。産業用機械設備の電気設計、プログラミング業務を行う。2011年に株式会社サークリーを起業。バスケットボール施設情報サービス「バスケバ」などを開発。2019年からエゾウィン株式会社の酪農支援システム「レポサク」事業に参画し、同システムの開発、運営全般を行う。

技術面を学ぶ。FAエンジニアとしての出発

本日はよろしくお願いします!
さっそくですが、奥山さんはいつどのようなエンジニアを目指すことになったのでしょうか?

実は僕が目指した最初のキャリアは、Webエンジニアではないんです。

中三の頃、僕は高校受験を期に電気科のある高専に入り、シーケンス制御を学びました。いわゆるFAエンジニアになるための勉強ですね。

あまりかっこいい話ではないのですが、ここに入った理由は単純に「就職率が高いから」でした。その時にはエンジニアとして働くんだろうな、というぼんやりとしたイメージがあったと思います。親がIT関係の仕事をしていたので、無意識に技術系の仕事に関心を持っていたのかもしれないですが、「なりたい!やってみたい!」というキラキラしたイメージではないんですよね。

高専卒業後は目論見通りFAエンジニアとして「東北パイオニア株式会社」に就職し、生産ラインの電気設計やロボットアームのプログラミング業務を行なう、いわば「機械をつくる機械」を動かす仕事をしていました。

なるほど、最初はWebのソフトウェアには関わっていなかったのですね。その後起業されたとのことですが、どのような経緯で独立しようと思われたのですか?

FAエンジニアとして務めて数年経った頃、好きだったバスケットボールやスノーボードに関連した分野に関わりたいと思うようになったんです。

自分の会社では、バスケに関する情報ポータルサイトを開発したり、ECサイトをつくったりしていました。受託開発のような動きもしていたので、僕が今担当しているCTOのような、会社を経営をしながら開発をする経験と知見を集めたのはこの頃だと思います。

では、エゾウィン株式会社(エゾウィン)に関わり始めたきっかけは何だったのですか?

エゾウィンの代表とは元々友人で、代表の地元の行者ニンニク栽培に付き合わされ一緒に北海道にきた時にエゾウィンの事業の種になるような話があって、じゃあ一緒にやろうかと進んできた結果、今に至ります。

エゾウィンではスマートフォン・パソコンから農業用車両の現在位置と進捗状況を確認し、農業DX化を目指す「レポサク」というSaaSを提供しているため、もともとFAエンジニアを生業としていた僕にとっては新しい挑戦でした。

ビジネスと開発の双方から事業を見るCTOの仕事

農業や酪農分野に踏み込むとなると専門的な知識も必要かと思われます。新しい分野で事業を考える中で、苦労された部分も大きいのではないでしょうか。

そうなんです。酪農業界は市場規模は大きいものの、一般人にはわからない専門用語がたくさん飛び出してくる業界で…。仕事をしていると普段決して耳にすることはないだろう言葉が沢山出てきます。

でも、そういったドメイン知識がないと農業分野で課題を解決するアプリケーションを作ることができないので、頑張って覚えていきました。
最初はお客様である農家さんの元に足を運んだりして、接近戦で学んでいましたね。

なるほど。そのように実際に現場に足を運ぶことで、ニーズや解決すべき課題を掴んでいるのですね。CTOとしては、今はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

ビジネスサイドとしては事業方針の立案・実行を担ったり、プロジェクトマネジメントしたり、開発サイドとしてはフロントエンドからバックエンド、インフラ、ネットワークまで手広く担当していますね。

技術開発にはどのような言語やフレームワークを使っているのですか?

アプリケーション開発にはプログラミング言語「Ruby」を、フレームワークとしてはRailsを使っていますね。

弊社では、農業という事業領域から、ユーザーのほとんどが現場の農家さんであるため、まずは素早くプロトタイプを作ってユーザーからフィードバックを得ながら改善していくという進め方を採用しています。RailsWayなどのいわゆる”Railsの形”に沿って開発を進めれば、一定の品質が担保されたWebアプリを素早く作ることができる点が、この場合にありがたいのです。また、習得コストが他のフレームワークと比較して低めであるといった点も採用している理由の1つです。

課題解決のために、技術を使う。エンジニアに求められる「全体把握力」

先ほどビジネスサイドと開発サイドの双方から事業に関わられているというお話もありましたが、その際に意識していることはありますか?

ビジネスサイドと開発サイドのどちらも尊重することですね。どちらも意識して、両輪で事業を考えるようにしています。ものづくりの本質は「何かを解決する」ことだと考えているので。

必死に働いているとつい開発のことだけを考えてしまいがちですが、本来そこには作る目的があり、一つ一つの工程が繋がっています。

コードが書けていても、それが”何のために”、”どういう意味があって”、”誰が必要としているのか”は意識していないと本末転倒なので。

工程一つをとって何かができるエンジニアも大事ですが、全体を把握しながら今の工程で何をすべきか?全体で何ができるか?を考えられるエンジニアだとよりありがたいですね。

いま、奥山さんが興味関心を持ってる技術領域や分野はどんなことですか?

データ処理の技術です。特に気になっているのは、HTAP(Hybrid Transactional Analytical Processing)と呼ばれる、リアルタイム処理などで用いられるOLTPと、専らデータ分析で用いられるOLAPを同時並行で行うことのできるデータ処理技術です。

OLTPはOnline Transaction Processingといって、細かいデータを低いレイテンシで保存・更新する処理のことです。農業の中で例えると、走行しているトラクターのような車両の位置情報や姿勢情報をリアルタイム保存、参照していくものですね。

対してOLAP、Online Analytical Processingは、大規模なデータを効率よく一気片付けてくれる処理のことです。例えば管理している全車両の位置情報データ等を分析して次に最適な行動を提案するようなものです。そしてHTAPはリアルタイムな処理と一括で大量のデータを扱う処理を同時に行うことで、「収穫作業の際、全車両の動きをリアルタイムに表示しながら、各々に最適な行動順、走行ルートを提案する」といったことが可能になります。

現在取り組んでいるプロダクトの中でも「リアルタイムデータ分析」はかなりのウェイトを占めているため、これは単純に興味があるだけではなく、今後エゾウィンが事業を大きくしていくためにも注目している分野です。

「モノに厳しく、ヒトにやさしく」仕事をする上で必要なエンジニア力とは

最後に、CTOとしてこれからエンジニアを目指すU25のITエンジニアにメッセージをお願いします!

まずは、エンジニアリングを楽しんでください。
あとこれは友人が使っていて自分も気に入って使ってるフレーズでもあるんですが「モノに厳しく、ヒトにやさしく」を大切にしてほしいなと思います。

エンジニアは自分たちの作るモノに対してシビアに向き合わないといけない職業であり、日常的に接しているシステム、つまり”モノ”に対してはそうであるべきなんですが、人に対しても同じような接し方をしてしまうと、チームに悪影響が出て、良くない結果になってしまいます。

現代のエンジニアリングの現場においては、一人二人で完成させるようなケースはあまりなく、チームとして日々築きあげていくものがほとんどなので、一人のクリエイターとして技術力を高めることと同じくらい、コミュニケーションも大事かなと思います。

ビジネスサイドの人間としては、やさしさを。開発サイドの人間としては、誰のため、何のためにその技術を使うのかという本質を見失わず、開発を楽しむこと。この二つを大事に、未来に歩んでいただけたらと思います。

エゾウィン株式会社

2019年北海道標津町で創業したスタートアップ企業。農作業の「今」と「過去」がハッキリ見える、誰でもできる農業DX「レポサク」を自社開発しサービスを提供中。スマート農業に採択され、作業効率10%効率化達成。令和4年度、民間部門農林水産研究開発功績者の農林水産技術会議会長賞(民間企業部門)を受賞。

引用元:https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/111139